5年目の結婚記念日
陽の光も段々と強くなり、爽やかな風が吹く5月の終わり。 紫陽花とひまわりが旬の、賑やかな季節がやってきた。 色とりどりの花々に心を弾ませながら、今日もお客さんを迎える準備をはじめる。 四季をこんなにも身近に感じられるのは、花屋の特権だと思う。 もう一年の折り返し。 時が経つのは本当に、早い。
遠くから「こんにちは!」と懐かしい声が。 振り返ると、、、やっぱりさいとうさんだった。 彼は昔この辺りに住んでいた。 「植物が大好きなんです。四季を感じられるから。」と、旬の花をよく買いに来てくれていた。 今は遠くに住まわれているけれど、結婚記念日には決まってうちのバラを買いにきてくれる。
「今年もこの季節がやってきましたね。」 「いやあ、早いなあ。花彩喜さんのところに訪れるたびに、時の流れを感じるんですよ。」 そう呟いて遠くを見つめる彼。 一年を振り返っているのだろうか。 その表情はとても幸せそうに見えた。 今年で5年目だから5本。1本1本、丁寧にやさしく束ねていく。
彼がどんな一年を過ごしたのか話してくれた。 お子さんが幼稚園へ入学したこと、温泉旅行へ行ったこと、料理を始めたこと。 言葉の節々から家族を大事に想う気持ちが溢れていて、こっちまでほっこりする。 仕上がった花束を渡すと、満足そうに微笑んでくれた。 きっと彼は知っているだろうから、5本のバラが持つ意味はあえて伝えなかった。 “あなたに出会えたことの心からの喜び” 結婚記念日にふさわしい、なんて素敵な花言葉なんでしょう。